ウイルス性胃腸炎
【ウイルス性胃腸炎】
1月になり、ウイルス性胃腸炎の患者さんが増えてきました。
小児の嘔吐・下痢症には、大きく分けて3つの原因(+その他)があります。
①ウイルス性胃腸炎
②細菌性腸炎(=食中毒)
③消化器症状も呈する感染症(インフルエンザ、COVID-19など)
④その他(便秘・胃軸捻転・胃食道逆流・腹部腫瘤による圧迫など物理的な消化管の流れの悪さによるもの、強い咳に伴う嘔吐、偏頭痛・めまい・脳腫瘍など神経症状としての嘔吐、など)
今回は①の「ウイルス性胃腸炎」について解説いたします。
・小児の嘔吐下痢の大半はウイルス性胃腸炎
・経口感染。潜伏期間は半日〜2日程度
・原因ウイルスとしてノロ、ロタ、アデノが有名だが、3つ以外も多い
・吐き気止め、整腸剤で対応する(下痢止めは基本的には使わない)
・脱水にならないのが主目的。経口補水が重要(要すれば点滴も)
・とはいえ、吐いている間は無理して飲ませなくてOK
・周囲への感染に注意 手洗い(とマスク)が有効
・ウイルス排泄は長く続く。保育園登園は「吐かない」「下痢がおむつから漏れない」が目安
上記の①〜④の中で、一番頻度が高いのがウイルス性胃腸炎です。
「感染性胃腸炎」というのもほぼ同義で、胃腸炎ウイルスが口から入り、
(1)胃の動きが落ちる→嘔吐、(2)さらに下に降りて腸の動きを派手にする→下痢・腹痛、が起こります。
熱は、出る時もあれば出ない時もあります。
感染が起こってから症状が出るまでの潜伏期間は半日〜2日くらいで、
「前日にショッピングモールに行っておむつ交換台を利用した」、
「昨日こどもの遊び場に行った」ということが多いです(もちろん保育園幼稚園での流行も)。
<原因ウイルス>
胃腸炎ウイルスとして有名なもの(=検査が可能なもの)に、ノロウイルス、ロタウイルス、アデノウイルスの3つがあります。
ノロ、ロタは冬に、アデノは比較的夏に多いです。
ノロウイルスは、人から人への感染(=ウイルス性胃腸炎)もありますが、
牡蠣の生食からうつる「食中毒」としての一面もあります。
そしてこれら3つのウイルスはアルコール耐性が強く、消毒は次亜塩素酸で行うことになります。
この3つは、症状が比較的強いので検査キットが存在するのですが、
3つ以外にも胃腸炎を引き起こすウイルスはたくさんあります。
症状の軽めな胃腸炎の多くは、この3つ以外の胃腸炎ウイルスによることが多いです。
とはいえ、どのウイルスかを確定することは、軽症の場合はあまり意味のあることではないので、
インフルエンザなどと比べると、積極的に検査はせず、「胃腸炎ですね」ということで終わりにすることも多いです。
流行や、家族が飲食関係の仕事をしている場合など、状況によっては検査をすることもありますので、お申し出ください。
<症状>
胃腸炎の際には、嘔吐、それに引き続いて下痢が起こります。
熱も出ることがありますが、③との違いとして、胃腸症状>熱、であることが多いです(インフルエンザ、COVID-19の場合は熱の方がメイン)。
ウイルス性胃腸炎の経過は比較的短く、
嘔吐期は、通常半日くらい、長くても1日半くらいでは落ち着くことが多いです。
ただ、嘔吐期にたくさん嘔吐した場合は、下の方に降りて行ったウイルスが腹圧でまた上に戻されるせいか、
嘔吐が長引くことが多いです。
経口摂取ができない期間が長くなると(2日以上くらい)、糖分が不足するため、体内の脂肪を分解してエネルギーを作り始めます。
結果、脂肪の分解産物である「ケトン体」がたまり、これが吐き気を誘発することがあります。
これは血液検査でわかり、この場合は点滴が有効なことがあります。
<治療、自宅での対応>
嘔吐期には、吐き気止めを使用することがあります。
頭の中の嘔吐中枢を抑制したり、胃の動きを促進したりして吐き気・嘔吐を抑えます。
吐き気止めは、坐薬と飲み薬(シロップ、粉、口腔内崩壊錠、錠剤)があります。
嘔吐期で、飲み薬だと吐いてしまう可能性がある場合は坐薬を使用します。
内服ができそう、もしくは下痢があって坐薬が使いにくい時には飲み薬を使います。
どれがよいかは、状態によって相談させてください。
最終的に、下痢と一緒にウイルスが排泄されることで胃腸炎が終わります。
下痢と一緒に出て行ってしまう「善玉菌」を補充する目的で整腸剤を飲んでもらうことがありますが、
これは嘔吐期がすぎて、経口摂取が安定してからで構いません。
いわゆる「下痢止め」は、ウイルスの排泄を遅くしてしまうため、ウイルス性胃腸炎には使用してはいけないことになっています。
とはいえ下痢があまりに多く、お尻の皮がむけてしまったりトイレから離れられないなど、
日常生活に不具合が強い場合には少量使うこともありますのでご相談ください。
漢方薬の「五苓散」は胃腸炎に効きますが、味の問題もあり、こどもでは使用頻度は多くはありません。
胃腸炎の対応で一番大事なのは、「脱水にならないこと」です。
しかし、なんとか頑張って飲ませようとしたり、こどもが飲みたがるからといってあげると、
胃腸の処理能力を超えてしまい、嘔吐し、結局長くなってしまうことがよくあります。
2時間くらい吐かずにいられたら、下で説明する経口補水液を、
5ml程度の少量から(ペットボトルのキャップ1杯が7.5mlです)、少しずつ口にするのがよいかと思います。
脱水になってしまうかどうかは年齢や体格による差も大きいですが、通常であれば0歳児でも半日くらいは大丈夫です。
尿が減った・濃くなった、泣いても涙が出ない、口の中がネトっとしている、皮膚がシワシワ、などが脱水のサインですので、
自宅ではこれらを観察してください。
最近ではロタウイルスのワクチンが普及したおかげでずいぶん減りましたが、
以前は、ロタウイルスの胃腸炎で大量の水下痢が出て、数時間で脱水が非常に進行し、目が落ち窪み、意識レベルも落ちて重症化することが度々ありました。
ロタウイルスのワクチンはぜひとも接種(内服です)してください。
一昔前は、「脱水になったら点滴」でしたが(いまでも点滴は有効です)、
最近は、その手前で「経口補水」という考え方が一般にも広がっています。
商品名ですが、OS-1など(比較的濃い、塩分糖分入りの水)を飲むというものです。
一般的なスポーツ飲料よりも濃く、点滴の成分に近いので、消化管が機能している様であれば非常に有効です。
ドラッグストアなどでも購入できますし、「1Lの水に塩小さじ1杯、砂糖大さじ8杯」で手作りすることもできます。
元気な時に飲むとしょっぱくておいしくないですが、体が欲している時=脱水がある時に飲むと意外と美味に感じます。
二日酔いの際にも有効です。
胃腸炎にかかったこどもは、大きく2タイプに分かれます。
①気持ち悪いのであまり飲んだり食べたりしたがらない子
②すごく飲んだり食べたりしたがって大泣きしたり暴れたりし、飲ませる・食べさせると結局吐く子
①タイプの子は、だいたい本人の希望通りにやっていくとうまくいきます。
②タイプの子は、上記の様に、本人の言う様に飲ませると吐いて、結局長くかかってしまうので、
本人の言う2-3割程度に、親御さんが手綱を引き締めてあげると経過がよいことが多いです。
<感染力と登園許可>
胃腸炎ウイルスは、患者さんの唾液、吐物、便に含まれます。それが別の人の、主に手から、口に入ることで感染します。
お子様が胃腸炎になった際には、当然大人にもうつりますので、嘔吐物や便を処理した際には手洗いをしっかり行ってください。
(そして大人は、子どもより吐きにくい胃・食道の構造になっているので、なかなかキツいです)、
マスクは、物理的に口を塞ぐので、こちらも有効だと思います。
保育園から「治癒証明をもらってほしい」と言われることがあります。
なにをもって「治癒」とできるかは難しいのですが、他人への感染力という意味で言うと、
便中には数週間、場合によっては1ヶ月くらい、ウイルスは排出され続けます。
その間、ずっと保育園に通えないいというのは、家庭の事情としても無理ですので、
「保育士が気をつけていても他人にうつしてしまう可能性がある」という状態を登園停止期間と考えて良いかと思います。
具体的には、①嘔吐、②おむつから漏れ出てしまうほどの下痢、の2点です。
これらの状態では、意図せずして他の子にうつしてしまう可能性があるため、自宅療養をお願いします。
嘔吐が落ち着き、下痢はあってもおむつ内におさまっている状況であれば、
保育士さんがおむつ交換時に気をつけていただければ、と考えています(便が下痢か固形かでウイルスの有無は変わらないので)。
もちろん、胃腸炎罹患後は体力を消耗しますので、「元気になった」という前提はクリアしてからにしてください。
2024.1.21
文責:力石浩志